現在、朝の4時。
今日の、あと6時間後で、うちから父親が消える。
屍になってからでないと、帰宅することはないだろう。彼は、自分を恨むだろうか・・・。
屍になりかけたとき(死期が近づいてベッドなどに伏しているとき)、よく痴呆の人の意識が戻るとか聞くことがある。もし、そのとき、「俺は捨てられたんだな」とか言われたら、どうしよう・・・と今から思う。
「すまなかったな」でもそれはそれで泣く。
どうなるのか、まだ先ではあるが、そのときにはここで紹介したい。

荷物に名前を書いている。
残り物の洗濯をしている。
こうして、今日も夜がふけて行く。
彼を忘れられるのは、いつのことなんだろう・・・。忘れないと、次は始まらないのに。
(・・・あとの時間帯につづく)

9時ちょっと前になりました。
今日はグラマリールのおかげか、ちょっとしっかりしている。
ただ、それゆえに、入院させることを、悪く思ってしまう。いつもこうだったらいいのに。そういうわけにはいかないし、つまり夜の問題行動がなくなるとは言えないし、これは仕方ないと、自分に言いつける。
仮に。
彼が、「介護度1」である現在から先日の区分変更で、上になることは予想されるが、そこから「自立」に戻れば、もう一度一緒に暮らせない訳でもない。「要支援」くらいでも、暮らせなくはない。
ただ、それはすごい奇跡だ。
だいたいは悪くなってしまう。
だから、自分は再三再四、「これで家にいるのは今日が最後」という訳だが、『姨捨山伝説』のお話を、思わず思い出さざるを得ない。
彼は、いま居間で寝ている。テレビが子守唄代わりだ。・・・自分の置かれている状況など、知る由もない。
果たして、今日の夜とか、明日からとか、どうなって行ってしまうのだろうか。
ああ、いけない。
また彼を考え始めている。彼を忘れなくては、自分の未来はないのに。忘れて、自分の生活を探し出し、生活を軌道に乗せて、そして自分をも見つける。・・・そんな簡単なことなのに。
鬼になれる人が、うらやましい。
しばらくは、こっちの悩みが出てきそうだ。

9時45分。
10時ごろに来てください、ということだったので、そろそろ行かないと。
最後なので、パンを与え、彼のために買ったお刺身を与えてます。
知らないで食べてます。
時折眠そうにうなだれます。
なんで、どうして・・・こうなってしまったんでしょうね。誰が悪いのか・・・とか、これでよかったのか、とか、色々と考えちゃってます。
とにかく、そろそろ行ってきます。

12時、正午になりました。
かの人がいるときは、「くだらない」と見てて文句ばっかり言うので見る気がおきなくなっていた「笑っていいとも!」をきちんと見られる。
それにしても・・・。
連れて行く途中は結構心が揺れたりしたのですが、先生とお話をしていると、これでいいんだな、って気にさせてくれる。
本当にいい先生だ・・・。
ちなみに、先生の話では、CTは撮影していないけどアルツハイマーではないか、とのこと。
帰るとき、彼と目が合ってしまった。
しかし、不思議と普通に接した。というのも、彼は、老人たちの中に溶け込み、1/1にお別れをしたのではなく、1/多数(50ほど)にお別れしたかのような、そんな感じがしたからだ。
ぞろぞろうろいている老人たちの中で、彼はこちらに一瞥をくれた。果たして、私を分かっているのだろうか。そして、これで家には帰れない可能性が高いことに。
万が一、分かったところで、追いかけられる位置に私はいない。あそこまで足腰が弱くなった分、足がもつれるだろう。
足がもつれて倒れ「手伝ってくれ」というだろう。
しかし、私にはその声が届かないところにいる。何週間後、私を覚えているのだろうか。そして、自宅とか自分の名前とか、色々な部面で、理解をするのだろうか。
そんなことを考えながら、家路についた。
蒸し暑い梅雨の終わりの頃である。

6時半になっている。
麦茶を造り、自分は絶対「沸騰したお湯で作る」派なので、扇風機であら熱を取っているときに、ずっと寝てしまったらしい。
(というか、物書きって面白いな、ここで「らしい」とかよく書く人がいるけど、自分のことなのに、「らしい」って・・・。)
ショートでいなくなるのとは訳が違う、という事実に、ふと気がつくと、なんだかやはり、こういう夕方の時間帯は、一人であることを否が応にも痛感させる。
外では、ひぐらしが鳴いている。
本当に悲しい声だな、とふと思う。
自分は自分の顔が嫌いなので、鏡を見ないのだが、自分も、見てみたら多分「悲しい」顔をしているんだろう。
狼男は夜の月を見て興奮し、変化する。それを見ても分かるように、人は夜に不安などを感じやすい。それに向かう夕方は、それに向けての「不安に対する不安」が横切る時間帯だ。
多分、自分が今「悲しい」のは、そういう意味だろう。そうでありたいし、そうであると願う。
決して、彼のおかげではない。これは人間の生理的現象なんだと。

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